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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

12 一九四五年(昭和二十年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,583 字 · 240 页

青空文庫

五月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 千葉県長者町より(封書)〕

五月十日(ムッちゃんという子が来ていてやかましいの)

三日づけのお手紙、丁度きのう出がけに頂いて、袋に入れ、こちらへくる汽車の中でたのしいおやつとなりました。これが一週に一、二度書いて頂けた時期の一番終りの分となりましたね。[自注12]虱の話。大丈夫よ。おどろきも心配もいたしません。太郎なんか田舎でゾロゾロよ。よく処置しておきましょう。水道は林町辺は十三日以来全く駄目となりポンプを使って暮して居ります。ガスも出ず、です。宅下げの本のこと、このお手紙の分もお話のあったことも承知いたしました。いろいろの古典をすっかりおよみになったのはさぞいいお気もちでしょう。

今メレジュコフスキーの『ミケランジェロ』を読んでいて、ルネッサンスという人間万歳の時代においても、法王やメジィチや我ままな権力に仕えなければならなかった偉大な人々の苦悩に同情を禁じ得ません。ミケランジェロの憂鬱は、彼の大いさに準じて巨大に反映したルネッサンスの暗さね、明け切れぬ夜の影です。この頃沁々思うの。未来の大芸術家は、記念すべき時代の実に高貴な人間歓喜をどう表現するだろうか、と。