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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
03 一九三六年(昭和十一年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,453 字 · 101 页
詩人だったひとは、持病があったところへ肺病がだんだんわるくなって遂に生きられなかったのですが、動坂のおばさんだったひとやそのほかの友達たちが最後まで想像されないほどの親切をつくしました。死ぬ二、三日前に撮った写真では、タオル寝間着――黒の縞のところに赤っぽい縞が並んでついたの――を着て、『冬を越す蕾』を手にもっているところがとられていました。
国男連中は、まだラジオです。今頃がベルリンの午後三時四時です。オリムピックのドイツ語の放送が聞えてきています。一九四〇年に東京オリムピックが催される由、その賑やかさが今から思いやられます。武者小路、西條八十などスタディアムにいての通信をおくってよこしています。白鳥は夫婦で行っている。藤村は国際文化協会という役所から後援され、ペンクラブの大会へ(ヴェノスアイレス)出かけて居ります。昔、フランスへ茶の実をもって行ったように今度のおみやげも日本の植物の実と柿本人麿の和歌です。横光利一はパリにいて、一九二九年以来の花の散ったパリ[自注10]を見てつまらないと感じている由、面白いものね。見る人のこころごころの秋の月かなの感ありです。