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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

04 一九三七年(昭和十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,810 字 · 225 页

青空文庫

そのことは多分去年の夏、あなたに其那スポーツは体の弱っているときにするべきでない、と云われたドライブで家の前を通ったときの印象で書いてさし上げたと思います。庭は芝生になっている。母が没した後父と来たとき植えさせた合歓木が風に吹き折られもせず一丈ほどに成長している。

私はこの間のハガキに書いたようにラジオのやかましさを聞いて机に向っていると、炎天の空がくしゃくしゃ皺になって感じるような神経の工合になったので、本当に本当に思い切ってこっちへ来ることにしました。相変らず仕事をもってではあるが、ラジオがガーガー云わず、来客がなく風が吹くのだけはましです。きのうはいい月夜で、窓からあまり海上が美しいので、ふらりと波打ぎわまで出てみたら、面白い発見をしました。虹ヶ浜であなたは知っていらっしゃるかしら。月の海というものは、高い遠いところから見ると銀波洋々であるが、波打際までゆくと月のさしている一筋のところだけ海上が燦いて、あとは微妙に暗く、しかもどこか明るく海面がもり上ったように見えるものですね。大変珍しかった。箱根の山の方も、風に吹かれた砂丘の方も見えず。丸い白い浴衣に団扇をもった私一人が月の照る浜にいるだけ。