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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
)現実へ入ってゆく感じです。
私たちの生活というものに腰がきまって来る、そのきまりのなまはんじゃくさが減少するにつれて、ぐるりが見え来るし、じりっとした工合が変って来て、ものを書く心持も亦えぐさが本ものに近づいてゆく。あなたがこわい顔をもして私のまわりからいろんなケチくさいつきものをぐんぐんこわさせていらしたことの価値も、今にして十分わかります。よく、自発的にやらないということについて、きつく仰云ったし、これからもきっと云われるでしょうが、自発的にやらないところがあるのは即ちその意味がわかっていない、或はそのことの真意の在りどころがつかめていないので、(私はわかってもやらないという気質ではないから)私の場合には幸、あなたの云いつけは反くまいという努力が原初的な形であるので、それによってフーフー云ってやって、さて成程とわかる式ですね。
一人の資質が三様四様の才能の最高最良な開花を見せることなど現実には稀有でしょうね。私は、終局においては賢明である目前の愚、或は鈍と、たゆまざる根で、やってゆく。そして何がどこまでゆくか一杯のところで生涯が終って、一杯ギリギリまでやったと自身で思えれば、よろこびとします。