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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

この頃は、この甘さの百面態がいくらかずつ見えて来ました。自身に甘えるところがあって、現実が現実として見えることは決してない。作品がそうです。その世界に甘え、その世界を見る自身に甘えたら、決してリアルには描けない。おたばこ一服になる。おたばこ一服ではまさかにないが、私の長い作品について、云っていらしたことね、(傑れた作品にするには云々と。生活の態度について)あれは本当です。はっきり本当と思います、あいさつとしてではなく。私はこの前後のことを考えると悲しいようです。だって、私は何故自分でそれだけのことを自身について発見して行けなかったろうか、と。そして、そういう力のなかった場合(あなたからの数々の気付き)、自分はどんなになったろうかと。これは考えると全く泣けるほどです。芸術家として生活人としての成長というものの、おそろしさ。ね。一寸正当な眼くばりをおとすと、忽ちスーと、おし流された揚句に眺めれば、陸はあすこであったかというようなものであり。

戸塚夫婦の生活には、こういうものが、形をかえて去年秋現れたと思います。パニック的なものの中から、やはりあっちはあっちとしての成長を見せています。