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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
針箱というものは情のこもったもので、妻にも母にも暖いものです、鏡台よりも。そうでしょう? 女が鏡台の前であれこれしているの、面白いが、時に薄情で女の無智から来る主我性や動物性があらわれる。針箱は活動的で一家の清潔の源に近くていいわ。私が大きいギラギラした鏡の好きでないのは、そういうようなあれこれのわけで、あながち、まんまるなのがいつも目に映れば悲しかろうという自分への思いやりではないの。まんまるなのを決して気がひけてはいないのですものね。まして、盲腸征伐の後では!
京大に入っていらしたときの話。短いなかによく情景が浮き上って、あの部分は短篇のようでした。『白堊紀』の中の短篇が微に記憶にのぼりました。漠然雰囲気として。ここの耳鼻は詩人が中耳炎の大手術をうけたから知って居ります。三二年の七月末ごろ、急によばれて行って見たら、もう脳症がおこりかけている。びっくりして十二時ごろ西野先生のお宅へとびこんで行って、入院させて貰って、大手術を受けたが、あの出血のひどかったこと。殆ど死ぬと思った。可哀そうで、私はその頭をかかえて死ぬんじゃないよ、死ぬんじゃないよ、皆で生かそうとしているんだから、と呼んだものでした。