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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

途中はずっと東海道の花見をいたしました。サクラのニッポンというわけね、全く。実に咲いている。そして奇麗です。市内の桜のように灰色のよごれた幕ではない。夜になって、退屈になったとき、朝着いて一度よんだきりであった手紙出して、ゆっくり、ゆっくり、字と字との間をくぐったり、字にもたれて一寸ぼーとしたりしながら永いことかかってよみました。そして、何だか独特な豊富さで旅の心を味いました。自分の名の呼ばれている、その字に声が響いていて、その声の響から全身が感じられて、近くに近くにあることを感じる夜半の汽車の中。

目前や周囲にくらべず、より高くと成長してゆける目安から考えるということは本当のことであるし、又本気で自分の生きかた、仕事に面したとき、云って見れば人類の古典と自身とが一つの直線の上にある感じで、ぐるりの同時代的相貌は煩わさなくなって来る。自身が古典として生き得るという直接の意味ではなく、芸術がいくらか分っているものは、恐らく誰でも、題材に向いテーマに心とられたとき、同時代の誰彼が、ああかいている、こうかいている、は消えてしまうでしょう。

低いものと比べるという形で危険は現れないのです。