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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

二十九日に湯元の板屋に部屋をとるように電報して出かけたのでしたが、湯元は満員というわけで、万一雪のあるてっぺんまで一気にあがって、宿はない、かえりの車はない、下でもう宿は一杯というのではわるいので、急に湖辺に泊ってしまった。翌日湯元まで往復六里ドライヴしましたが、泊りはやはり湖畔でよかったと云っていらしたから私も満足です。

宿屋ではドイツの若い人が何人も泊り合わせ、歌をうたったりしているのもお母さんにはお珍しかった様です。姫鱒も中禅寺湖名物で、私は美味しかったが、お母さんは初めてでどうもぞっとなさらなかった由。河魚は身が軟い。それがおいやのようです。それでも、ここの名物と思えば、食べても見たと笑っていらっしゃる。可愛い子には旅させろ、大事な親にも旅させろだろうかと笑いました。

翌日は、戦場ヶ原や白樺林、楢の深山らしい雄大で凄い樹林をぬけて湯元へ登ったら、ここには雪が積っている。湖畔の桜は赤い蕾で日光では満開。湯元で雪のつもっているのを見たら(往来や山に)何とも云えない面白い、奇妙な、感じがして、一寸一言に表現出来ない心持でした。いい心持というのではないの。