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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

随分びっくりしたのを思い出す。パリの真中の、こういう長い長い歴史。コウカサスの山の中でやっぱりこれと同じ仕組みのを見ました。但こっちのは絶壁に向ったさしかけにこしらえられていて、こわかった。

親たちはペリエール並木道というところのアパートに滞在していてね、そこは、地下電車が真中を通っているが、その上は公園のような植込みになっていて、電車も車道もなく、従って道幅は大変ひろい。向う側のカフエの赤と白との日覆と青塗の植木の鉢とがやっと見えるような街でした。そこの表通りに面した五階か三階でした。台処の通用口は玄関とまるで関係なく建物の横手から全階に通じていて、雇人たちの住むのは建物の頂上の半屋根うらの一階ときまっている。(雇人なんかうちの連中にはなかったけれども)

日本の御飯を母がたべたがって折々私が台処をしました。カロリン米をたいて青豆を入れたりして。

そのアパートに近藤柏次郎という人がいました。どんな生活をしているのか分らなかったが、ピアノの名手であったそうです。この人は母堂が急死したら、家産を親戚に横領され、急に帰って来たが、その状態がわかったら、お嫁貰ったりしたのに芸者と死んでしまいました。