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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

何しろせまいのですから。

お風呂から出たら何とも彼ともねむくて、寿江子の一服にもつき合えず。フラフラになって二階にあがって、スタンド消したの覚えているかいない位です。

今朝は、すこし丁寧に台所を清潔にして、あがって来てこれを書いて居るところです。寿江子は何しろ、昨夕、台所一人でやってへばったと見え、まだおきません。寿江子きょう林町の法事へ一緒に行って、それでかえりきりになります。私は十四、十五、十六日といそがしいから、又机にへばりつき。すこし埃っぽいのは我慢してね。

人間というものは可笑しいこと。もと上落合に一人くらしていた時分、ひとり眠ること、普通の意味ではこわくもなかったし、平気のようでしたが、あの家で五月の或朝、不図目がさめたら、ベッドの横にめぐらしてあった屏風の上から、帽子をかぶったなりの背広の顔が二つ出ていて以来、一人はほんとにいやになってしまいました。こわいと、いやとは別ですね。寿江子がいなくなったら、本間さんといううちの久子という女の子に夜分だけ泊って貰おうかとも思います。このこはつとめていますから、ほんのねるだけ。朝はこちらも早いから平気ですから。