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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
)明るく「愛は知慧の巣」というような表現をもちつつ、対象の世界へずーっと入りこんでいず、ある距離をおいて眺めて、感じるものを感じると自覚している心の姿勢。随分なちがいですね。「器用貧乏」あの境地にはいろいろあるけれども、それでも作者の血液がしみとおっている点では真物です。今夜は小説のこねかた。小説の世界が次第に鮮明に(部分部分から)なって来ると、人のうごき、声、表情、場所の光景が目にうかんで、独りでなくなって、何人かの人間をひっぱって自分が歩いているような気になるのは面白いところです。桜坊の話が出たので、本当にたべて頂きたく思います。ふたつぐらいきっと毒ではないと思うのですけれども。二十一歳の姉娘はもう相当具体的に上野のプラットフォームに立ったりするのにまだ名がありません。弟の方も。では又明日。
六月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
六月十七日 第五十三信
きょうの天気予報はくもり時々小雨でした。ゆうべ、おふろで洗濯をしてね、白い干しものを夜の物干しにもってあがって、折角洗濯したのに降るのかしら、私が洗濯なんかしたから降らざるを得ないのかしら、困ったことだ、と思っていたら、けさはからりとして、すこし間で怪しかったが、午後はこの通りの快晴。