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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

彼女は、そして又多くの女は、現実の中で日常性で、謂わば動物的な自然の力から、彼女の母性をふくらがしてゆく子供をもっていなかったため、自分の人間性の要素の展開を自力でしきれなかった。それだけの精神の多様さ、自由な想像力、普遍性で自分一ヶの存在を感覚し得なかったのであると思います。

ユリが、一人の女、そして深く深く愛されている妻として、こういう風に考えるに到って来ているということ、私たちの生活にある様々の条件に即して観た場合、なかなか味は一通りでないと思われます。何年間かの生活で、随分苦しいいくつかのモメントを経て居り、又日々に新たなそういう飢渇のモメントをもちつつ生活して居る。そして思えば思うほどかけがえなき愛が自身に向けられていることを感じるとき、飢渇的な面に止っていることに満足されなくて、どうしたら、この愛が、よりひろい響きを発し、花開くかと思いめぐらすようになります。これは、すべての内的過程がそうであるとおり、いくつもの、年を重ねるさし潮、ひき潮があって、段々に海岸線がひろげられてゆき、少しずつ、美しい景観がひらけて来るというようなものです。