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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

もし片手で重くないものなら、あいている方を、頭の上へのっけていただけば。何といい心持でしょう、こうやって凝っといるのは。

読みものは進んで居りますか。あとも届いて居りますか? 私の心持も、大方あなたの一日の大部分がそこを通っているだろうと思われる一つの流れのなかにあるわけです。そして、いろいろの瞬間を思いやります。今は切実に思いやることが出来ます。

そして、自分の仕事も考え、いろんなものをよみ、一日の〓〓幾度かあなたに何かしてあげたくて掌がやけるように感じています。ほんの一寸したこと、一寸したこと、ひとこと、どう? ということ。一寸コップに一杯つめたい水を。ねえ。これらの欲望の一つ一つは何と小さいでしょう。でも何とあついのでしょう。小さい火でしょう。そしてこういういくつもの小さな火は輪になって私たちをとりまきます。夏でもこういう焔の色はやはり鮮やかで美しい。

今は夜の七時四十分。一人食堂のテーブルに居ます。皆は霊岸橋のよこの大黒屋という有名な鰻やへ行きました。関東からかえって来た豊寿さんという倉知の従弟をもてなしに。私は面倒くさいので失礼。それに仕事の下拵えもあるし。