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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

大体のところ。

月刊の合本のこと承知いたしました。今度はすこし手間をとるかもしれませんが。

本のこと、こういうヨーロッパの有様では注文もいつ来るやらですね。緑郎、大戦始るか始らぬかで、ワルシャワにはドイツのボムが落されているなかでどうしているでしょう。丁度お金もなくなっているそうですが。この前のチェコのとき、巴里では多くの人が都会から逃げ、緑郎も「デンジャー、金オクレ」という名文を打ってよこしたが、今回はその暇もありませんでした。ドイツ式方法で侵入したからね、廻廊へ。

けさいろいろの心持で御飯たべていたら皆川さんから手紙です。八月中旬に男の子が生れた由。そして、何人かの人々が組んで集合住宅をつくるのですって。十五坪ぐらいで三千円。渋谷のどこか奥の由。そのカン誘です。隆二さんの親友だが顔が見えなかった。そういうことについても思っていましたから、この手紙みて何か感じがあり、人の歩く道ということについて感じた次第でした。男の子をもつ、家を建てる。結構ですが。私をカン誘したこと、何となく頬笑まれます。その人の心持が映っていて。私は十年の間五十円ずつ月賦はらって、渋谷の奥に自分の家というようなもの持つ心は、ちっとも湧きません。