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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
埃が余りひどくなければ、寒さそのものはもうこわくありません。永い間、バスなどにのっていて、ドスンとはねると、あ、と脇腹をおさえたい心持でいたから、この頃、すこしドスンとして、神経だけ習慣ではっとするが、おなかの中はちっとも痛くないので不思議な位です。本当に今年はいいだろうと楽しみです。腹の中から不断に毒素を発していたものがないというのはきっと大したちがいだろうと思われます。今のところまだそれほどにもないが。傷のあとなど劬っているから。傷そのものは小さい七八分のすこし赤みがかっている十字で、この頃は肉が凹んでいたのも殆どなおり、仰向にねたり、おふろに入っているときなどすっかりすべすべと平らになりました。傷の上の方に何かまだしこりがあって、それを全くちらしたら完成です。
きのうは電報ですこしおどろきました。記録料など出来上れば当然こちらへ請求するものだからそちらへ請求するわけないのに、どうしたことかと思ってすぐ電話かけてきいて見たらば、旅行中でわかりません。今日かえる由。そちらへ求めて来たのではないでしょう? 出来上れば勿論すぐ支払います。ただ、出来たらすぐ支払えとおっしゃるわけだったの? それなら電報はおうちにならなかったでしょうね、よくわからない。