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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
平静にしていたいという基本的希望によって、平静がこわれかかるというようなおかしい矛盾も、まあ。
火曜日以後になれば、これから先どの位安静にしていらっしゃれるかということも、いくらか見当がつくかもしれませんから。
きのうは二時ごろまでいました。そのおかげで、又「ジャン・クリストフ」をよみかえしはじめて大分すすみました。「ジャン・クリストフ」はそれなりに一つの美しい緊張緻密な世界を示しているけれども、やっぱり今日の目と感情では、うちひらかれるべき窓々が感じられます。そのことも大変面白い。三十年の歳月を経ると、ね。あれがかかれたのは一九〇九年頃でしょう。
手をはらさないように。手をはらさないように。この中に何とたくさんのものが響いていることでしょう。ユリは手ははらさないわ。大丈夫です。けさ藤江がかえって来ましたし。きのう迄は丁度五日にすんで(「広場」)つかれが出ているところへいろいろで、書くものも気が添わずのばしてしまっていましたけれども。きょうからは、今からは又大丈夫です、でも明日どうしましょう。やっぱり行って見ようかしら。それとも火曜日以後にしようかしら。