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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
06 一九三九年(昭和十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页
うちを手つだって貰うと云っても、ほかの奥さんでありませんから、やはり私は気づまりだわ、古いなじみでもないのですし。家での働きをしたいとは土台思って居られますまい。
ユリの心持への影響のこと、心つけて下すってありがとう。大丈夫よ、本質的に煩わされていないのですから。小説のモティーフが豊富になるようであるといい――そうね。本当にそうねえ。私はこう云われていることで、あなたのお心持一層感じられます、そして、そういう風な状態での受けかたです、私としても。あなたもそういう気持の肌理でいらっしゃるのね、何とそれはこまやかでしょう。今にはじまったことではないけれども。それ自身として、よ。小説のモティーフの豊富さと云われていて、テーマがつよめられると云われていないところに無限の含蓄があります。この言葉をくりかえしかみ直し、心のゆたかさを感じ、慰めの暖かさ、こまやかな精神の肌理のつやを感じます。これは小さいが珠のような一滴ね。本当にありがとう。口のなかへ入れてのんでしまうよう。
詩集は「暖い冬」というのです。人気ない小丘のかげに一つの池があります、その水ぎわに一本の美しい樫の樹が生えていて、静かな深い夜のうちに、明るいしずかな昼の沈黙のなかに、その若い樫の梢は不思議に伸び育って、丁度その池のまんなか、湖心というようなところ