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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
何とも云えず立派に、美しい。というような美をもっている女のひとは、大変すくないのね。女の生活が、そういう美の内容を与えにくいのでありましょう。周囲のマさつを、悠々と越してゆくだけの力が、種々な面で不足していて。ゲーテ、アポローなどと云うけれど、旧い旧い常套です。美の範疇は遙か前進して居り質をかえています。私は自然の美しさ、微妙な趣をよく感じることが出来て仕合わせだと思ったことはこれ迄度々あり、人間の美しさ肉体と精神の極めて高貴な調和もよく感じ、そのことにも深いよろこびを見出しているけれども、時にそれは又新しい力で心をうつものとなります。
折角養生していらっしゃるのだし、手紙余り長くなく度数の方で加減いたしましょう。その方が便利でしょう? 私の愛好する二重唱の全曲とすれば、これはほんのほんの序曲というところですね。
七月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(比治山公園旧御便殿(広島)の写真絵はがき)〕
七月二十三日 エハガキが段々払底になり駄作連発。この間うちお送りした紀州田辺の風景のうち扇ヶ浜というのがあってそれはそれは虹ヶ浜に似て居りました。