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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
流水と共に生きている人が、初めてその河床の凹凸について語れる、そう感じる本です。この本をよみ、文学というものを考えると、全く文学は、文学趣味から解放されなければ恐るるに足りないものでしかないと思います。即ちこの本は一つの文学ですから。「誰が為に鐘は鳴る」の下巻が一箇のテキストであるように。
八月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(レマン湖の写真絵はがき)〕
八月四日
きょうお金をお送りいたしました。湿度が高くて八十二度しかないのにさっぱりしない日です。レマン湖のエハガキも、これでは何となくがっかりね。スウィスは牛乳が世界一良質だそうです。北海道の雪印バタ工場が焼失したそうで又一層バタはなくなるでしょう。八月玉子は一ヵ月に一箇だそうです。この頃どちらを向いても茄子、茄子です。茄子の花の色は風流ですが。
八月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(箱根大涌谷の写真絵はがき)〕
この前お手紙頂いたのは十五日の日づけでした。私がお目にかかったのは二十日です。きょうは五日。もう半月以上経って居ります。行って、お会い出来なかったのは二十八日でした。二十日から二八日までの間に、状況はちがったというわけでしょうか。