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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
国男さんがお歳暮をくれたので、到ってわずかな物ながら何か残る物をと思って、心がけていて、日頃ごひいきのドガの踊子のデッサンと額ぶちを買い、今それが一間の壁にかかっています。いかにも創作的な活力と、眼光とが漲っている作品で、部屋中が確りと落着いて来ました。私は本当にドガが好きよ。すえ子も。この部屋が初めは全く病室風で、それがだんだん居間らしくなり、さてこの頃は居間であるが、ただの居間ではないと云う処が出来てきて、この変化を興味あることに思います。
近頃、本が読みたくなって、それを読まずに来月一杯は暮そうと思うから、何とか気紛しが必要で、いくらか集注する必要もあり、将棋でもやろうかと思いますが、生憎なことにお師匠さんがそちらにいらっしゃるから困ったものです。幾何をやろうかと思ったら国男さん曰く、「姉さん、そりゃあ頭を使い過ぎるよ。」おまけに唯一の相手のスエコは、何の虫のかげんか「駒」の字が好きでないんですって。意味が判らないのよ、何故だか。(筆者註、アッコオバチャンは口だけ達者で困りますヨ!)まさか前の通りに床几を持出すわけにも行かないからこれはお流れね。