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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

藤村は「東方の門」という長篇(岡倉天心を主人公にするものの予定でした由)の第三回をかいていて、死にました。七月下旬大東亜文学者大会というのが二十五日にひらかれ、Yなどが満州代表として来たりした一二日前に。「夜明け前」のような主調を、一まわり東洋にひろげたものであったのでしょう。この作家はいやな男ですが、文学者としての計画性について、それを押しとおす実際の努力について、学ぶべきところはあると思います。人物のいやな面を十分みぬきつつも、一方のそういう力は学ぶべきですね。どういう意味と目的とからにしろ、彼ぐらい計画性にとんだ作家はいません。あの年代の人で。秋声は人聞は遙かにいいけれども、自然発生にああなのだし、正宗に到っては、旦那衆の境遇上のスタビリティーですし。

きょうは颱風模様で、ここの隣組は防空演習なのに、咲枝気の毒です。私は出ないの。あぶないから、まだ。泰子は結核の方はかかっていないで、ああいう体だから恢復がむずかしいのですって。わたしの燐の注射は利くのでしょうが、薬が四年前に製造中止で十本しかないのは哀れです。頓服でいいのがあるけれども其も入手が骨で全くの貴重薬です。