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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

九月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

九月九日

なかなか又暑い日となりましたが、それでも秋らしさも濃くて面白い日です。風のふき工合など。南も北もからりとあけた二階で、ものを干したりしていると、風にカタカタと小障子の鳴る音がして、それはまぎれもない秋日和の感じです。昨夜なども面白い夜でした。

月が早く落ちて、夜の十一時頃西に傾いた月が庭木をひとしお暗く浮き立たせながら、光を失った色で梢に近くありました。星は光を消されないで小さく澄みながら窓に輝いていたり。

稲子さんの書いたものにも、ほかのひとのにも、南方に冬がなく、夏つづき、正月にひとえを着て雑煮をたべる妙な気持をしきり云っていますが、こんなこまかな日本の季節の感じに馴れたものは全く夏つづきというにはぼーっといたしましょう。隆治さんはジャワでようございました。あすこも夏ばかり、花の咲きつづけのところですって。しかし、なかでは凌ぎよい由。花が咲く、という言葉には、深い感じがあって、それこそ花のない町という裏づけがあってこそなのだのに、年がら年じゅう花が赤く黄色く開きぱなしの自然の中では、よろこびの感覚さえ眠ってしまうでしょうね。