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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

九月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

九月二十六日

七八年前、三笠からツワイクの『三人の巨匠』という作家論が出ていたの、御存じでしょうか、うちにあるのはきっとあなたのもっていらしたのではないかしら。

バルザック、ディケンズ、ドストイェフスキー。バルザックをよんで面白くツワイクという人の特徴も一層明瞭になりいろいろ考えました。ツワイクはこの作家論で、それぞれの作家の作家精神の精髄をつかみ出すことを眼目として居ります。バルザックの精神を、全体を全体なりに掴もうとする熱烈、病熱的情熱。あらゆる価値の相対性、それらを型化せんとする偏執狂的熱中。自己陶酔、偉大なる断篇としてつかんで居て、特に金銭がバルザックの世界で最も変質しない普遍的な価値として(人間を支配するものとして)現れていることなどをあげて居ります。

ツワイクはこうやっていきなり作家の心臓の鼓動に手をふれる能力と果敢な精神をもっているのだけれども、バルザックが青年壮年時代をナポレオン没落後のくされ切ったフランスにブリューメルの罪過が最も悪臭を放った時代にすごされて、彼の大天才はああいう内容をとったということについては見ていないのね。