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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
月に向って精一杯
小さな障子をあけている。
いよいよ蒼み 耀きまさり
月も得堪えぬ如く
そそぐ そそぐ わたしの窓へ
満々として 抑えかねたその光を
ああ今宵
月は何たる生きものだろう
わたしは燦きの流れから
やっとわが身をひき離し
部屋へ逃げこみ襖をしめる
こんないのちの氾濫は
見も知らないという振りで。
けれど
閉めた襖の面をうって
なお燦々とふりそそぐ 光の音は
声ともなって私をとらえる
月の隈なさを
はじめてわたしにおしえたその声が
今また そこにあるかのよう。
一月二十三日
二月十九日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
二月十七日
十六日の御手紙ありがとう。
去年の二月十三日には、そちらではパイナップルの鑵を開けて、私の誕生日をお祝い下さったそうですが、今年は何の鑵があったのでしょう。みんなのなかで暮しているからと、御放念だったでしょうか。いずれにせよ私は、あなたから色々のお祝を戴きためてあるから、その日になってにわかにがっつくこともありません。
十三日は、生れて始めてこんな風に誕生日を祝ってもらったとびっくりするようにしてくれました。