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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

今日の作家は、もっとダイナミックに考えるから、柳浪を必ずしもその形で学ぼうとはしません。そうでないのならどういう風に自身を導くか、芸術の方向で、ね。

この宿題はあなたがお気がついているとおり、もう何年間か私の宿題で、「朝の風」からあとずっとついて廻って居ります。「朝の風」は、そのモラルの中でああまで瘠せたことについて軽蔑するよりも注目すべき作品でした。全く危機を告げている作品です。

あすこからどちらへ流れ出すかということは私の生涯を決定するのだけれども、私はモラリストとしての自分が、丁度自分の音質や声量にかなった芸術的発声法をつかめなくて日夜喉をためしてその音をきいているような工合でした。ところがね、私が逆説的な福祉と云う状況になって、全く私は落付けてしまったのよ。ジャーナリズムとばつを合せる気をさらりと捨てたら、自分の声がききわけられて来たという工合です。そして、それは、うれしいうれしい工合なの。自分のモラル、人間のモラルの高さまっすぐさ美しさはいよいよ深くかたく信じつつ、謂わば、その規準があってはじめて大丈夫という工合で、生活の姿を全体としてつかんで、例えば、人間の生活の下落も、その下落の明瞭な把握において高さを描き出し得るし、自分はそういう一彫刻的作品を描いてよいと自分に許せる気になった次第です。