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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

10 一九四三年(昭和十八年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页

青空文庫

太陽は我を忘れて、瞬間太古の熱さにかえりました。そして、灼き燃えたつ光の珠となって、その花びらの軟くきついしめつけの中におちて行きました。

異教の歌というのは、どういう物語をさしていうのでしょう。ギリシア人は、太陽を決して花びらの間におちる神だとは思っていませんでした。信心ぶかく伏目がちなイエス、マリアの使徒たちは、一閃の稲妻が瑪瑙を花に変えるいのちの奇蹟を、自分たちの救いの中には数えませんでした。

さもあらばあれ。わたくしは、良人のために異教の歌の美しい一節を奏でます。

十月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(カーフ筆「静物」の絵はがき)〕

九日。隆治さんのところを申し上げます。濠北派遣堅第九四五〇部隊藤井隊 です。堅というのはよくわからないことね、でも字はそう書いてあります。パンの上にでもつくのかしら。

お引越しはすみましたか。こういう台所はあんまり食慾をそそりませんね。

十月十一日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

十月十一日

十七日までに着かすためには、もうきょう手紙を出さなくてはいけないことね。

ことしは実に迅く一年が経ちます。