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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
しかし今、あの山道を通るいろいろの動きをまざまざと思いやると尽きぬ感興があります。
私たちがのっている船は、あの晩夏の黒海のきらめく碧さと潮風にふかれてのどかでした。クリミヤにしろ、そこに咲く百日紅の色を知っています。ノガイの草地では、馬乳が療養上有名です。そのノガイに今日では歴史の物語がくりひろげられているわけです。ノガイと云えばトルストイの時代にはその遊牧民の天幕小舎しか考えられなかったのよ。それ以上のロマンティシズムはあり得なかったのです、エクゾチシズム以上のロマンスは。今日景観は何と雄渾でしょう。それを想って、「東橋新誌」という題みると、おのずから感懐をおさえ難うございます。古くさいがみじめです。今日では明治のランプをつけて古ぼけた写真くりひろげているよりも、土にじかにいて、星あかりに照らされる方がよりフレッシュであるようなものです。
達者な新しさ。それをどんなにのぞむでしょう。文学の上に、ね。本当にすこやかな息吹きも爽やかな力を。わたしのカン布マサツの動機もお察しつきまして? 余り遠大すぎてお気の毒のようです(自分に、よ)
さっき太郎が寝ました。