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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
よろこぶけれど、はじめ思いついたり、物を工面したり、さがしたり運んだりということはしないのね、決して。そういうゆきかたにタイプを感じます。
きょうは朝四時十五分前に起き、みんなを起し、おじやをこしらえてやりました。食べてから、何か事が起りそうで、仕度して気をはっていたのに結局八時迄この組は何もなく、私は折角外に出ているのだから、落葉はきをいたしました。そしたら、風呂場の紙屑の下からミラノの街の写真だの、どこかの宮殿の写真だのが出て来て珍しく眺めました。ミラノの、今度空襲をうけた大ドーモの写真。美しく壮大なゴシックの寺院などです。但、通行人の服装は一九〇八年頃なのよ。古風で、何てつみがない風でしょう。宮殿の方のは、壁という壁に、ひどい壁画がいっぱいで、その絵の中に人間がウヨウヨしているの。そこの前でほんものの人間はどんな神経でいたのでしょう。自分たち活きた人間の無言のこだまのように壁上の人間どもを見たり感じたりしたのかもしれないけれども、あのうるさい無趣味さに平気になるだけでも、そこの住人はよほど魯鈍ならざるを得なかったと感じさせます。こういう様式を宮殿として見て来ているブルノー・タウトなんかが、日本へ来て桂離宮などをよい趣味とこころだけが語られている――その前には何でももって来られる空間――として驚異