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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
10 一九四三年(昭和十八年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 215,557 字 · 426 页
でもね、わたしとすると、ここで生れて育った年下のものを、全く何一つしてやらず、はぐたの皿小鉢ぐらいちょこちょこ集めてやって、家さがしの話を話していても一つも助けてやらず、家から出すということを、普通のことのようにするのは、大した努力よ。寿江子のために勇気を出しておこるのをもおさえ、悲しいのもこらえ、新しい生活でのいい面を押し出してやらなければなりません。わたし達は、この家で生れたのではないのよ。私は小石川原町。国は札幌。ですから五歳以後からこの家に住んだだけです。寿はここで生れ、兄をしたって子供時代をすごしました。国はここの家を自分の家と思っているわけですが、寿にすれば、親の家ですからね。そこの感じは大変ちがいます。
寿が可哀想だから、あなたも寿江子がいいところを見つけるように、健康に愉快に勉強して暮すように、と云って下すったとつたえました。よろこんで居りました。シーンとして、早く出てゆくのだけ待っているような日々で、わたしが気をもんでいるばかりでは、寿も哀れですから。どうか、おついでのとき、寿江子にハガキかいてやって下さい。ここ宛でようございます、却って。