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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
02 一九三五年(昭和十年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,805 字 · 40 页
気味がわるいくらいだね、そういいながら仰ぎ見ました。東京とちがうねえ。それからその晩はすぐ眠って、次の二日の日は、三人で海岸ではなく山の間を散歩しました。そして私は美しい梅もどきの枝を見つけて折ったり、紅葉した木苺の葉を見つけたり、いね子は「いいねエ、何ていいんだろ」、あなたこなた眺めつつ二時間も歩き、健坊は臆病もので、いかにも町育ちらしく、山の小路が坂になっていたり、崖だったりすると尻ごみして「かアちゃん、あぶないよ!」と後を振りかえって云うの。「何だ健坊よわむしだね、百合ちゃんはこわくないよ、ホラ、何でもないじゃないか!」そういう工合。帰って、その晩はストーヴの前でいろいろ夜ふけまで二人の話せるあらゆる話題について話し、少しくたびれると、いねちゃんがタバコをのみながら(この頃のむようになった)詩集『月下の一群』を棚からおろしてよんだりし、又いろいろ話した。
今日になれば去年になったが、夏四日ばかりその時はター坊から父さんから一家づれで、毎日潮浴びをやって暮したことはまだお話ししませんでしたね。私はあのストーヴの前へ坐ったり、ソファへ横わったりする毎に、常に一定の内容をもった思い出にだけとらわれるのは苦痛であるし、一方から考えれば決して健康と云えぬし、又其のような状態をおよろこびにならないこともわかる