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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

01 一九三四年(昭和九年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,990 字 · 30 页

青空文庫

そのときの漫画はね、まるでバルザックみたいな(これは今井邦子の評)上半身の横に、一つ土瓶が描いてあるのでした。私が土瓶一つからだって、見るその人の生活によって、どんなに連想の内容がちがうかということを云ったからでしょう。文学における表現の形象性と云えば、重ね引出しを整理したら、そのことについて、あなたが中途でやめておおきになった古い、多分三四年昔の原稿が出て、その一枚を私は黒い細い枠に入れ、こうやってかいている机の横の壁にかけて居ります。わきの小窓にかかっている紫っぽいところに茶の細い格子のある毛織地のカーテンと原稿紙の字とは大変美しく釣合って、稲子にさすがだといってほめられました。まるでお話ししながら、そこに全体の仕事を感じながら、自分も仕事をしているような居心地よさです。美しさというものは何と活々したものでしょうね。何一つめずらしいものではなくて、しかもこれらのものは本当に堅実で、雄々しく美しくて鼓舞的な輝きを含んでいるのです。その枠の下の本棚は私の御秘蔵本棚とも云うべきもので、いろいろ愛する本を並べて居ります。

この家へ越したのが十一月二十日です。