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ばくおう
獏鸚
海野 十三
「新青年」博文館、1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,493 字 · 33 页
――虫籠のようなマイクロホンが、まるで深淵に釣を垂れているように、あっちに一つ、こっちに一つとぶら下っている。
「見給え、あれが桐花カスミだ」
と私は帆村に主役の女優を教えた。
帆村は一向気がないような顔をして、トーキー撮影場の天井ばかり見上げていた。
「それからついでに紹介するが、あすこでルージュを使っているのが、例の三原玲子さ」
「三原玲子?」帆村は初めて眼を天井から、群衆の方に移した。「おお、あの女が……」
帆村はなにに駭いたか、私の腕をしっかり握って目を瞠った。私はその場の事情を解しかねたが、彼はどうやら玲子を前から知っていたらしい。
「おい出よう」
いま入ったばかりなのに、帆村は私を無理やりに引張って外へ連れ出した。
私はすくなからず不満だった。それを云うと、帆村は私を宥めていった。
「興奮してはいけないよ。あの三原玲子という女は、例の暁団の一味なんだ。何を隠そう、ギロンで僕に密書を渡そうとしたのは正しくあの女なんだ」
「何だって? 玲子が暁団員……」
何という意外なことだろう。人もあろうに玲子が暁団に関係しているとは。私はさっき門衛から聞き込んだことを思い合せた。