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ばくおう
獏鸚
海野 十三
「新青年」博文館、1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,493 字 · 33 页
やがて小さいスクリーンに、ぶっつけるような音が起ると、現代劇「銀座に芽ぐむ」が字幕ぬきでいきなり映りだした。
帆村は私の隣りで熱心に画面を見ているようだったが、三原玲子はなかなか現われてこなかった。そして暫くすると口を私の耳のところに寄せて囁いた。
「ちょっと可笑しいことがあるぜ。……桐花カスミの声は実物より迚も良すぎるじゃないか。さっき聴いて知っているが、これはどうも桐花カスミの声ではないようだ」
この質問には、実のところ私は、帆村の注意力の鋭いのに駭かされてしまった。
本当のことを云えば――これは会社の大秘密であるけれども……、桐花カスミの悪声について一つのカラクリが行われているのだった。トーキー時代が来ると、桐花カスミの如きはまさに映画界から転落すべき悪声家だった。しかし実を云えば彼女は某重役の籠い者であったから、そこを無理を云って、辛うじて転落から免れた。さりながら重役とても、会社の映画の人気がみすみす墜落してゆくのを傍観していられないから、そこでこのカラクリの手を考えた。――三原玲子は、実は桐花カスミの「声の代演者」だったのである。
声の俳優――そして三原玲子は、会社の秘密の役を演じ、桐花カスミを助けていたのであった。