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ばくおう

獏鸚

海野 十三

「新青年」博文館、1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,493 字 · 33 页

青空文庫

もしそうだったら、こんどうんと窘めてやるから……」

と与えられているのに、トーキーで彼女が実際に喋った台辞の方は、「あらまそーお、マダム居ないの、騙したのね。外は寒いわ、正に。おお寒む」

というのであった。なるほど、これでは前後の台辞の続き工合がすこし変であった。

「これは面白い……」と帆村は手帖に書きとめて、

「……アラマソーオ、マダムイナイノ、ダマシタノネ、ソトハサムイワ、マサニ、オオサム……。これは面白いぞ」

としきりに面白がって、同じ文句を読みかえすのであった。

「帆村君、どうして台辞なんか間違えたんだろう」

「なあにこれは一種の暗号だよ。……『獏鸚』以上の隠し文句なんだ」帆村がそう云ったとき、俄かに入口の方にがやがやと人声がして、誰かこっちへ跫音も荒く、近づいて来る者があった。……。私は扉の方へ、振りかえった。

と、そこへ扉を排して現れたのは、私もかねて顔見知りの警視庁の戸沢刑事だった。

「これは……」と戸沢名刑事は帆村の方を呆れ顔で眺めてから、ぶっつけるように云った。

「帆村君、えらいことが起ったよ」

「えらいことって何です。戸沢さん」と帆村もちょっと突然の戸沢刑事の来訪に駭きの色を見せた。