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たまとりものがたり

玉取物語

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第二十四号小説二十人集」1951(昭和26)年10月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,495 字 · 19 页

青空文庫

手始めに獺を集めて剖刀を試されたら如何」というたが、山脇は「臓志」という医書で、獺の内臓は人間の内臓とは似てもつかぬことを宝暦のむかしに明らかにしている次第だったから、意見としてもこれは迂濶なものであった。また一人は「この程、去勢術に関する医書を手に入れました。主として、牛馬の睾丸または卵巣を割去する術を詳述したものでござるが、その医書によって、牛馬のふぐりを試みられたら、いくらか手心がわかろうではあるまいか」と尤もらしい説を立てたが、大槻にしても戸塚にしても、その辺にぬかりのあろうわけはなく、如月のはじめ頃からそれぞれ牛馬について十幾度の実検をしているが、止血の方法がうまくいかず、とりわけ性器の完成した壮年の牛馬は夥しく出血して倒れてしまう。灼切り法というのも試みたが、施術後の保定にも不確なところがあるゆえか、幼年の孱弱なものは一匹も助からなかった。大槻、戸塚の実検はまだその辺のところで停滞しているが、殿様の御物は一日といえども待ってはくれぬ。今日の参集も、こういう態たらくではとてものことは望めない。この上は、おのれら二人の力で、日毎に肥えまさる悪性の御物と駆けくらべをするほかはないと決意したことであった。