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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

在线阅读岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 页

青空文庫

「いや、その懸念は無用じゃ。彼は予を文弱と侮っているとか申すが、忠通は藤原氏の長者じゃ。忠通は関白じゃ。彼らがいかにあせり狂うたとて、予を傾けようなどとは及ばぬことじゃ。なんの彼らが……」

忠通は調子のはずれた神経的の声を立てた。そうして、鬢の毛でも掻きむしりたいように、両手で烏帽子のふちをおさえて頭を二、三度強くふった。その神経のだんだんに昂奮して来るのを、玉藻はいたましそうな眼をしてそっと窺っていたが、いつかその眼から白いしずくがはらはらとこぼれてきた。

「はて、なにを泣く。まだ堪忍がならぬか」と、忠通は彼女の涙に眼をつけて叱るように言った。

「唯今も申す通り、わたくしの堪忍はどのようにも致しまするが……」

「もう言うな。予のことは予に思案がある。その懸念には及ばぬことじゃ」

顔の色はいよいよ蒼ざめて、忠通の眼の奥には決心の光りがひらめいた。

「但しこのことを余人に洩らすなよ」

「はあ」

二人は再び眼をみあわせた。ゆうべに引き替えて、きょうはそよりとも風の吹かない日であった。散り残った花が時どきに静かに落ちて、どこやらで鶯の声がきこえた。

その日の午過ぎに、忠通は桂の里から屋形へ帰った。