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がんぐ

玩具

太宰 治

「作品」1935(昭和10)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,362 字 · 9 页

青空文庫

やがて障子のかげから無邪気な笑顔を現わしたときには、相手のからだは意のままになる状態に在るであろう。手管というのは、たとえばこんな工合いの術のことであって、ひとりの作家の真摯な精進の対象である。私もまた、そのような手管はいやでなく、この赤児の思い出話にひとつ巧みな手管を用いようと企てたのである。

ここらで私は、私の態度をはっきりきめてしまう必要がある。私の嘘がそろそろ崩れかけて来たのを感じるからである。私は姿勢の完璧からだんだん離れていっているように見せつけながら、いつまたそれに返っていっても怪我のないように用心に用心を重ねながら筆を運んで来たのである。書きだしの数行をそのまま消さずに置いたところからみても、すぐにそれと察しがつく筈である。しかもその数行を、ゆるがぬ自負を持つなどという金色の鎖でもって読者の胸にむすびつけて置いたことは、これこそなかなかの手管でもあろう。事実、私は返るつもりでいた。はじめに少し書きかけて置いたあのようなひとりの男が、どうしておのれの三歳二歳一歳のときの記憶を取り戻そうと思いたったか、どうして記憶を取り戻し得たか、なお、その記憶を取り戻したばかりに男はどんな目に逢ったか、私はそれらをすべて用意していた。