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げんかぶんだんとたんていしょうせつ
現下文壇と探偵小説
平林 初之輔
「文学時代 第一巻第三号」1929(昭和4)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,026 字 · 8 页
三、トリック トリックは必要である場合とない場合とがある。これぞというトリックなしに最後まで読者にサスペンスをもたせることができれば、それに越したことはないが、現実の事件にはそうした場合はほとんどないから、まず多少の伏線を示しておいて、最後にトリックであっと言わせるということが多くの場合必要になってくる。ことに短編の探偵小説では、トリックはほとんど生命だといってもよい。かつて邦訳で読んだ誰かの小説に三月三十一日の夜晩く、カフェか何かで奇々怪々な身の上話を始める男がいた。聴き手は異常な好奇心にそそられてはらはらしている。話はだんだん佳境に入って到底あり得べからざるような話に進んでいった。とうとう時計は真夜中の十二時をうった。その時話し手は、うしろにある柱暦を一枚めくって、「今日は四月一日だね」というのがあった。むろん四月一日といえばエイプリル・フールと言って、どんな嘘でもつき放題という日なのだ。この話は話の内容には何の伏線もないので、どんなに読者が考えたって、わかりっこはないのである。ただ三月三十一日の深更ということを記憶している読者のみが作者のトリックを観破し得るのである。