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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

もう、こんな話は、よしましょうね。お父さんが退院して、元気が恢復してから、笑い話に思い出を語り合う時がきますわ。それまでは、何を思いだしても、いけませんのよ。あなた、ツル子さんに、お礼、仰有ってちょうだい。私たちの一家を助けて下さったのです。あなたを救いだして、重役にして下さったのも、このお嬢さんですよ」

菊松には何が何やらワケが分らなかった。しかし、現実を素直に受けいれるだけの、妙にスガスガしい落付きがあった。戦争以来、見失っていたスガスガしい気持だ。たしかに、なにかが、全快したに相違ない。

「そうですか。どうも、ボクには、よく分らないが、巷談社の社長の方は、天草商事の方ですかな」

「イイエ。サルトル・サスケさん」

「サルトル・サスケ? 雲隠才蔵とちがいますか」

「イイエ。天草商事に関係のない方です」

菊松の記憶にはないワケだ。サルトルに会った時は、もう狂って、マニ教の座敷牢にいたのだから。

「その方が、どうしてボクを重役にして下さったのでしょう?」

ツル子は真ッ赤になってうつむいたが、ようやく、気をとり直した。

「サルトルさんは、私のフィアンセです」

「ツル子さんも、巷談社の重役ですのよ。