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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

案内された部屋は、渓谷に面した特別の上等室。石川長範は秘書の江戸川熊蔵と将棋をさしていた。長範社長、四十がらみの苦味走った好男子。ところが熊蔵秘書が怖しい。これも四十がらみであるが、何百人叩き斬ったか分らないという面魂である。戦争で何万人殺したって凄みはでないが、この先生は天下泰平の時代に人殺しを稼業にしたという凄みが具っているから怖しい。ゴリラの体格。この先生がグッと盤上へかがみこむと、将棋盤が灰皿ぐらいに小さくなってしまう。

「御足労、御苦労御苦労」

長範社長はウイスキーをグッとあけて才蔵にさし、

「実はな。オレもマニ教の信者でな。社用で箱根へくる。社用の方はサルトルや熊蔵がやってくれるから、オレはヒマを見てマニ教の神殿へとまる。魂が浄まって、しごく、よきものだぞ。今朝まで泊っておった。オレは進駐軍関係の土建業務もやっとるから、キリスト教のよいところも充分に知っとるが、やっぱし宗教はカシワデ、指圧。日本人の霊はこの手だなア。手に関係が深いぞ。だから日本人の体質には、アンマ、指圧が病気にきくのだなア。精神的にも肉体的にも、日本の伝統は手の伝統である。