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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

顔をつぶしやがったら、そのまゝじゃアおかねえぞ」

「ヘエ。顔でざんすか。これは、どうも、いけねえな。顔はつぶれるかも知れませんねえ」

サルトルはクスリと大胆不敵な笑みをうかべて、まぶしそうに長範社長を見つめた。

「ショウバイはすべからく金銭の問題で、顔なんざ二ツ三ツつぶしておいた方が気楽なんだがなア。もうけりゃ、いゝじゃありませんか」

「よろし。その言葉を忘れるな。顔の立つだけ、もうけてこい」

「ヘエ。もうけてきやす」

サルトルはニコヤカに一礼する。自信満々たる様子。不可測の才略は長範もよく心得ているから、奴めがあゝ言うからは委せておいて不安はなかろう。内々ホッと一息。

その場には敵方の雲隠才蔵も居合わすことだから、余計なことは云わない方がよい。一同は底倉へ帰る。ひとり敵の手中に取りのこされた才蔵は、味方の奴らが恨めしく、くやしくて堪らない。

「なア、おい。ウチの社長もアンマリじゃないか。オレだけ、ひとりぽっち箱根へおいてかれちゃ、骨ばなれンなっちまわア」

いっしょに箱根東京間トラックにゆられた仲だから、こうサルトルに訴えたが、ニコヤカに笑みをふくむだけで、とりあわない。