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げんだいにんじゅつでん

現代忍術伝

坂口 安吾

「講談倶楽部 第一巻第八号~第二巻第三号」1949(昭和24)年8月1日~1950(昭和25)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,446 字 · 155 页

青空文庫

彼は観念の目をとじた。かようなテンマツによって、天草書房編輯員という彼の新職業がはじまったのである。

その日までは、大学生というものを、ナンキン豆のアルバイトをやり、タバコをくわえてダンスホールへ通い、太平楽な奴らだと思っていた。これも戦争のせい、同類が戦野に血を流し、未来ある生命を無為に祖国にさゝげた仕返しのようなものだ、と、むしろ同情をよせていた。彼も歴史の先生である。戦乱破壊のあとに何が起るかということを、過去にてらして正しく判断するに誤る筈はなかったのである。

だが、大学生というものが、このような新動物であろうとは! 彼は天草商事へ就職するのが怖しかった。

天草次郎の見るからにチャチなチンピラのくせに残忍無慙にくいこんでくる視線が怖い。白河半平の妙になれなれしく、女性のように柔和な笑顔も気にかゝる謎であった。これをマトモにうけとめるには必死の努力がいるのであった。

「ウヌ。畜生め! オレだって、やってみせるぞ」

と、彼がこう呻いたのは、そもそも就職の当日からだ。怒りと恐怖のカクテルの胴ぶるいである。自分が悪魔になったような覚悟がこもっているのである。