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びわでん
琵琶伝
泉 鏡花
「国民之友」1896(明治29)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,081 字 · 24 页
面壁イ九年とやら、悟ったものだと我あ折っていたんだがさ、薬袋もないことが湧いて来て、お前様ついぞ見たこともねえ泣かっしゃるね。御心中のウ察しねえでもねえけんどが、旦那様にゃあ、代えられましねえ。はて、お前様のようでもねえ。断念めてしまわっしゃい。どのみちこう謂い出したからにゃいくら泣いたってそりゃ駄目さ。」
しかり親仁のいいたるごとく、お通は今に一年間、幽閉されたるこの孤屋に処して、涙に、口に、はた容儀、心中のその痛苦を語りしこと絶えてあらず。修容正粛ほとんど端倪すべからざるものありしなり。されど一たび大磐石の根の覆るや、小石の転ぶがごときものにあらず。三昼夜麻畑の中に蟄伏して、一たびその身に会せんため、一粒の飯をだに口にせで、かえりて湿虫の餌となれる、意中の人の窮苦には、泰山といえども動かで止むべき、お通は転倒したるなり。
「そんなに解っているのなら、ちょっとの間、大眼に見ておくれ。」
と前後も忘れて身をあせるを、伝内いささかも手を弛めず、
「はて、肯分のねえ、どういうものだね。」
お通は涙にむせいりながら、
「ええ、肯分がなくッても可いよ、お放し、放しなってば、放しなよう。