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びわでん
琵琶伝
泉 鏡花
「国民之友」1896(明治29)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,081 字 · 24 页
「老夫や、世話を焼かすねえ。堪忍しておくれ、よう、老夫や。」
と身を持余せるかのごとく、肱を枕に寝僵れたる、身体は綿とぞ思われける。
伝内はこの一言を聞くと斉しく、窪める両眼に涙を浮べ、一座退りて手をこまぬき、拳を握りてものいわず。鐘声遠く夜は更けたり。万籟天地声なき時、門の戸を幽に叩きて、
「通ちゃん、通ちゃん。」
と二声呼ぶ。
お通はその声を聞くや否や、弾械のごとく飛起きて、屹と片膝を立てたりしが、伝内の眼に遮られて、答うることを得せざりき。
戸外にては言途絶え、内を窺う気勢なりしが、
「通ちゃん、これだけにしても、逢わせないから、所詮あかないとあきらめるが……」
呼吸も絶げに途絶え途絶え、隙間を洩れて聞ゆるにぞ、お通は居坐直整えて、畳に両手を支えつつ、行儀正しく聞きいたる、背打ふるえ、髪ゆらぎぬ。
「実はね、叔母さんが、謂うから、仕方がないように、いっていたけれど、逢いたくッて、実はね、私が。」
といいかかれる時、犬二三頭高く吠えて、謙三郎を囲めるならんか、叱ッ叱ッと追うが聞えつ。
更に低まりたる音調の、風なき夜半に弱々しく、
「実はね、叔母さんに無理を謂って、逢わねばならないようにしてもらいたかった。