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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
「文章世界」1917(大正6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页
」
川部のそう云った言葉が、壮助の気分を急に転換さした。今迄の重苦しい緊張が急に融けて、彼は川部の顔を不思議そうに眺めた。
再び歩き出して暫くしてから彼は川部に云った。
「君少し……二、三十円ばかり暫く融通は出来まいか。」
「なに二、三十円、そんな金が僕のような貧乏人にあるもんか。然し是非なければいけないのか。」
「いや是非という程ではないが……。」
「それなら我慢した方がいいよ。いくらあっても要するに足りないんだから……。」そして川部は一寸言葉を切った。「金というものは、或人にとってはいくらでも無駄にごろごろ転っているものだ。或人にとってはそれは貴い労力の結晶なんだ。また或人にとっては如何なる額の汗を以てしても得られない宝なんだ。其処から多くの誤られたる概念や人生観が生れて来る。貧に甘んずることが一番いいんだ。頭とそして心とを悪くなさないために……。」
「また君の論理癖だね。」
壮助はそう云って苦笑した。然し苦笑されないものが彼の心を急に脅かして来た。
兎に角古谷に逢わなければならない。
壮助は急に川部に別れを告げた。
「どうしたんだ。」
「いや急な用事を思い出したんだから。