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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
「文章世界」1917(大正6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页
凡て卑俗なもの、激情的なもの、混濁のうちに醸される好奇なもの、そんなものが彼の頭をぼんやりさし、彼の頭の中にもやもやとして熱りを立ち罩めさした。写真の合間にぱっと明るく電気がついて、自分の側に眉の濃い鳥打帽の男や赤い手絡の女やを見出す時、彼は顔を上げ得られないような気持ちに浸っていった。
人波にもまれて活動小屋から押し出されると、彼はもう凡てが懶くなっていた。それでも何かに追われるように一人でに足が早められた。頭の芯に遠い痛みが在った。
閉められている宿の戸をそっと開くと、内からお婆さんの大きい声がした。
「かっといて下さいよ。」
その声をきくと、急に身体の筋肉が引緊められた。そして何かが、重い鈍なるものが、彼の眼の前にぴたりと据えられた。其処で凡てがゆきづまっていた。
「どうにでもなるようになるがいい。」と彼は投げ出すように呟いた。然しすぐその後から別な声が囁かれた、「あすという日が来たなら……。」
然しながら、重苦しい眠りの中には、凶なる夢が彼を待っていた。
――広く明るい舞台の上にでも見るような室だった。何処から射すともない明るみが一杯に湛えていた。