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いきているかんばん

生きている看板

小川 未明

「早稲田文学」1927(昭和2)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,965 字 · 6 页

青空文庫

ある男は、一日のうちに、五円ばかりもうけました。ある男はこの一週間の中に、東京から、大阪の方までまわってきました。また町へ、旅から役者がきて芝居を打って去れば、その間には質屋の隠居が死に、指物屋の娘は嫁にいったのであります。けれど、ペンキ屋の主人の生活には、変わりがありませんでした。

「兵さん、このごろは、どうですい。」と、聞くものがいると、兵蔵は、にやりと笑って、

「あいかわらず、暇です。」と答えました。

女房は、質屋へ持ってゆく品物もつきて、子供のものまで持ってゆきました。

「なにか、ほかの商売をすればいいのに、ああ遊んでいては、困るのもあたりまえだ……。」と、近所のものは、見るに見かねて、ささやき合ったのです。

しかし、兵蔵は、あいかわらず、のんきそうに暮らしていました。ある日のこと、女房は、辛棒がしきれなくなったというふうで、「なにをそうぶらぶらして、毎日、考えているんですね。私たちは明日食べるお米がないじゃありませんか。」と、いいました。

「好きで遊んでいるんじゃない。仕事がないのだもの、しかたがない。」

彼は、こういって、ぶらぶらしていました。