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せいとしとのきろく
生と死との記録
豊島 与志雄
「帝国文学」1918(大正7)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页
「坊や、坊や、どうしたの。」そう芳子は顔を寄せて云った。
T氏の来るのが待ち遠しかった。S子さんは自分の俥を病院に残して来たというから間違いはなかろうけれど、それでも苛ら苛らしてきた。念のため病院に自働電話をかけさしに常をやった。
常と入れ違いにT氏が来られた。すぐに一通り病状を聞いてから、T氏は診察をした。「ひどく急激に来ましたな。兎に角至急病院で手当をなすったが宜しいでしょう。」と云われた。
「脳は大丈夫でございましょうか。馬鹿になるようなことは……。」と芳子は云った。
「ええ脳の方は御心配はいりません。」とT氏は答えた。
T氏と私達との話で、T氏はS氏と大学の同じ研究所で研究せられている友人であることが分った。大変都合がよかった。U病院の方は万事T氏に頼んだ。氏はカンフルを堯の右腕に注射して先に帰られた。
大急ぎで間に合せの仕度をした。私は堯を毛布にくるみなおねんねこにくるんで、胸に抱いて車に乗った。堯は半睡の状態に居た。車の中で一度軽い痙攣が来た。私は、幌の中の狭い天地に眼を伏せて、堯の額に唇をおしあてた。
三時半病院についた。二分ばかり応接室に待たされた。