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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

夜遅く、私は看護婦の容態表をじっと眺めた。

朝――熱八度二分、脈搏百二十八、呼吸四十四、

午――熱八度四分、脈搏百三十六、呼吸四十二、

夕――熱九度四分、脈搏百三十四、呼吸五十二、

夜――熱九度二分、脈搏百四十、呼吸四十五、

尿二回、便五回、嘔気二回、カンフル注射二回、腸注入一回、人乳五瓦三回、十瓦三回。

私は其処に敷いてある蒲団の上に身を投げ出した。そして何にも考えまいとした。それは卑怯な態度ではなかった。そして私はうとうとした。

ふと眼を開くと、芳子は小さな机にもたれてじっと坐っていた。極度に緊張した表情をしていた。

「いけないのか。」

「ええ、そうらしいわ。」

芳子は便所に行った。

「やはりそうらしいわ。」

「ではすぐに帰るがいいよ。」

「ええ。」そして芳子は室の隅をじっと見つめた。

寝て居た看護婦を私は起した。

看護婦は起きて行って、電話室へはいった。私も後からついて行った。もう一時になっていた。俥屋は中々起きなかった。それでも漸く起き上った。至急俥を二台頼んだ。

芳子は既に軽い陣痛を覚えていた。堯の額に唇をつけた。堯は眠っているらしかった。或は覚めて居たのかも知れない。