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せいとしとのきろく

生と死との記録

豊島 与志雄

「帝国文学」1918(大正7)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,961 字 · 39 页

青空文庫

芳子の悲痛な心と陣痛の苦しみとが、私自身に返って来た。そして私は自分の全部でじっと堯の枕頭に坐っていることが出来た。

私は無理にすすめて看護婦を寝かした。

夜は静かで何の物音もしなかった。時間がぴたりと止ったようであった。じっと眼を瞑っていると、堯の全部が私の前に見えて来た。

私は堯の頭に未来を期待していた。――生れた時から堯は母親の乳房でなければ、護謨の乳首に決して吸いつかなかった。――玩具に対しても、はっきりした好悪を持っていた。或物は決して手にしなかった。また或物を持ち初めると、それに執着して決して長い間手から離さなかった。――夜なんかどうかするとふと泣き出すことがあった。そういう時は、いくら乳を与えても、抱いてやっても、泣き止まなかった。その意味が私達にも後には分って来た。そういう時は、昼間持ち続けていたものが何か必ずあるのであった。それを取ってやると、すぐに泣き止んで、手に握ったまますやすやと眠った。――知らない人に対しては決して笑わなかった。他家の人があやすとくるりと外を向いてしまった。――いつも妙に黙り込んでいた。私は演芸画報をよく買って来てやった。